仕事の幸福度がこれまで以上に重要な理由

今、働き手も雇用主も、これまで経験したことのない境遇におかれています。パンデミックがどれくらいの期間続くのか、それが経済に与える影響はいかほどなのかなど、新型コロナウイルスの影響は計り知れません。そんな中で人々の幸福度はどうなっているのでしょうか。幸福度はこの状況にどのような影響を与えるのでしょうか。

オックスフォード大学の准教授であり、国連の世界幸福度幸福の共同編集者でもあるヤン-エマニュエル・ドヌーヴ博士によると、幸福とそれに寄与するさまざまな要因がこれまで以上に重要になってくるようです。「今、私たちが直面している経済や健康に対するマイナスの衝撃を緩和できる唯一のもの、それはこの危機を通じて活性化されている人々の社会的つながりやソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の強化です。」と彼は説明します。

今回の記事では、危機において幸福度が非常に重要である理由、雇用主がそれをサポートするためにできること、現在のパンデミックが仕事の未来をどう変化させるかについての洞察をドヌーヴ氏に伺いました。

 

社会的つながりは幸福のために重要です

まず、「幸福度(well-being)」の意味について考えてみましょう。広義では「あなたとあなたのコミュニティの両方がどのような状態か、そして、自分たちがそれをどう感じているか。」と、ドヌーヴ氏は定義します。

ヤン-エマニュエル・ドヌーヴ博士 | オックスフォード大学経済学部准教授、ウェルビーイングリサーチセンター ディレクター

おそらく、それはとてもシンプルなことです。ただ、仕事の内容をもっと詳しく見て行くと、さまざまな要因が関係してくるでしょう。実際、従業員の幸福度は複数の力が交差して形作られます。それらは人を動かす力、「ドライバー」です。典型的なものとしては、公正な給与や仕事に対してのやりがいなどがあります。もちろん、これらも依然として重要ですが、危機の間は優先順位が変わります。雇用主は、今、何に焦点を合わせるべきなのでしょうか。

コロナ渦において、働き手の幸福で最も重要なドライバーは帰属、感謝、インクルージョンなど、すべて基本的に社会生活に関わることとドヌーヴ氏は考えています。これらの要素を組み合わせることで、従業員は会社の将来について自信を持つことができ、先行きの見えない中での恐怖や憶測を減らすことができます。

「福島の事故や津波など、過去の衝撃的な出来事からも、その証拠となるような例があります。まず、社会的つながりが強く、人々の協調行動が活発なコミュニティほど、事態にうまく対処できる可能性が高まるのです。」とドヌーヴ氏は言います。

職場もコミュニティであり、そしてさらに大きなコミュニティの一部でもあります。では、実際にはどのようなことを意味するのでしょうか。「雇用主は従業員の帰属意識や仲間意識を育て、従業員に感謝を示すことで、コロナ渦においても幸福度や生産性のサポートをすることができます。」とドヌーヴ氏は説明します。

例えば、従業員に対して、従業員全体が一丸となって取り組む必要性があること、会社はこれが非常にストレスの大きい状況であると認識していることなどを知らせ、従業員を安心させることをドヌーヴ氏は勧めています。従業員が直面しているそれぞれ異なる制約や課題を理解し、支援を示すことは、この厳しい状況で結束と士気を高めるのに役立ちます。そして、パンデミックから抜け出すときに、前よりも強くなっているために重要なのです。

そして、覚えておいてください。幸福であることは心にとってよいだけではありません。人々の労働にもよい影響を与えます。

 

働き手を支えるために、今、重視すべきことはオープン性、透明性、帰属意識

3億人近くのアメリカ人が外出自粛の状態にあり、多くの人は初めての在宅勤務を経験し、家事や育児などプライベートととも両立しようとしています。これはさらなるストレスとなります。ここでドヌーヴ氏が特定したもうひとつの要素が挙がってきます。柔軟性は職場における幸福感を推進する重要なドライバーです。

例えば、小さな子どもがいる従業員は、通常の業務時間の前または後により多くの業務をこなすために、スケジュールをシフトしなくてはならない場合があります。このようなニーズに敏感であることは、従業員の幸福度を維持する長い道のりを進むのに欠かせません。すでに従業員に柔軟性のある働き方を提供してきた会社の場合、日常業務おける変更は少ないだろうとドヌーヴ氏は言います。コロナ危機で急な改善が要されつつも、それに懐疑的な人たちにとって通常以上の柔軟性を取り入れることはまだ時間がかかりそうです。

他にも雇用主が留意しておくべきだとドヌーヴ氏が指摘することがあります。それは、人々が新型コロナウイルスは「コントロールできないもの」と感じ、それが故、大きな困難を覚えていることです。会社のリーダーたちは会社の将来について、「透明かつオープンに」コミュニケーションをする必要があるとドヌーヴ氏は示唆します。これによって不確実さが軽減し、従業員はコントロール感を得られます。

コミュニケーションと会社への帰属意識を同時に向上する方法の一つに、定期的なチームミーティングもしくは全社的なQ&Aセッションがあります。これによって全社員が同じ意識・理解をもち、人々をまとめることができます。また、従業員は変化する状況の中で、他の人たちとのつながりと最新の情報の両方を得られます。

 

失業が幸福度に及ぼす影響

「仕事を失った時、人は人生の満足度のおよそ20%を失いますが、そのうち収入の損失によるものはその半分ほどなのです。」とドヌーヴ氏は言います。

残りのネガティブな影響は、失業そのものから生じる社会的体験に由来することが、彼の研究で示されています。それは、アイデンティティや自尊心、社会的つながり、それまでの日常などの喪失を意味します。仕事を失うということは経済的なダメージだけではありません。心理的および感情的な混乱を引き起こす可能性もあります。その結果、失業の負の影響は働き手が仕事を再開した後にも継続するのです。

また、景気後退期に幸福度が特に脆弱になるものこのためです。「全体として、人々は経済的損失に対して、同等の経済的利益と比べて2倍も敏感であることが分かっています。」とドヌーヴ氏は説明します。

では、企業はこれについて何ができるのでしょうか。ドヌーヴ氏は、新型コロナの危機は典型的な景気後退とは異なると考えています。「この危機は本当に経済の一時停止ボタンを押している状態です。うまくいけば、数ヶ月で再開するかもしれません。」と彼は言います。企業と従業員が一丸となって嵐を乗り切ることを彼は望んでいます。

この変化し続ける状況の中で、一部の業界は他の業界よりも大きな課題に直面しています。しかし、ここを耐え抜くことのできる企業に対して、ドヌーヴ氏は解雇を回避するための解決策を工夫して見つけることを提唱しています。

可能性としては、給与を抑えるために就業時間数を削減して従業員に働いてもらったり、無給の休職オプションを提示することなどがあります。ドヌーヴ氏によると「グレート・リセッション時に同様のアプローチを取った企業は、その後、活気を取り戻し、他社に比べて競争力がありました。それは、従業員の士気やエンゲージメント、幸福感がはるかに高かったためです。」

残念ながら、すべての経営者がこのような選択肢をもつわけではありません。それでも可能な限り、誰もが「難局を耐え、ともに困難を乗り越えるべき」とドヌーヴ氏は主張します。

 

将来に備える

現在、将来についての会話がたくさん交わされています。この危機が終わったとき、私たちはいったいどういう状況にあるのだろうかと。

その答えは誰も知りません。それでも、この会話を今の段階から始めることは重要だとドヌーヴ氏は言います。「企業のシニアリーダーたちにひとつアドバイスしておきたいことがあります。それは、(事態が収束して)人々が仕事に戻り、この『新しい普通の状態』から『昔の(元の)普通の状態』に戻ることが期待されるときのことについて、透明で合理的な議論をしておくことです。」

これまで、古い考え方の企業や管理職の人たちは、テレワークや柔軟な業務スケジュールを検討することに難色を示してきました。パンデミックが収束し、雇用主が以前のやり方に戻ろうとすると、働き手の反発があるとドヌーヴ氏は考えています。

「人々は新しい働き方に慣れてきており、それが機能することを知っています。すでに、この働き方がある程度可能であることが示されているので、今後、管理職が『いいえ、9時から5時まで、全員オフィスにいることが必要です。』と言うのは難しいでしょう。」

すでに共同作業を長い間しているチームにとっては、リモート作業というやり方がベストとなる場合も多く、それがまさに現在起こっていることだと、彼は指摘します。

「どんな性格で、どんな外見で、どんなボディランゲージをするのかなど、すでにお互いのことをよく知っているので、週に1〜2回のミーティングを行うだけで全く問題ないのです。」とドヌーヴ氏は説明します。

このようなチームの場合、テクノロジーによって対面式と変わらないミーティングをWeb会議でほぼ完全に実現できるので、コミュニティと所属の意識を維持しながら、従業員が必要とする柔軟性を提供できます。

 

今こそ幸福感を育み、嵐を乗り切る時です

もちろん、従業員の健康をサポートすることは企業がすべき正しいことです。しかしながら、それだけではありません。彼らの生産性のサポートにも役立ちます。実際、ドヌーヴ氏の調査によると、働き手は幸福を感じると生産性が最大で20%向上します。これは危機的状況下ではさらに重要です。

帰属意識と柔軟性は今のところ働き手にとって特に重要であり、これらを優先する企業は長期的な利益につながるでしょう。雇用者は明確でオープンなコミュニケーションを心がけ、従業員に情報を提供し、自分でコントロールできているという感覚を与える必要があります。可能な限り、人々が仕事を続けられるよう工夫して、解決策を見つけなくてはなりません。今、多くの働き手にとってテレワークや柔軟な働き方のオプションがあります。そして、これらは働き方の新しい未来を形作るとドヌーヴ氏は信じています。

今、私たちは仕事と社会にとって未曾有の事態に直面しています。それでも、ドヌーヴ博士のアドバイスに従って、お互いが協力し合い、嵐を乗り切ることができれば、私たちはさらに強くなれるかもしれません。

 

原文はこちら:Why Well-Being at Work Matters More than Ever